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28.09/30/08:48 [笑う小説]

28.良く見たら、チャックは四つあった。好きな位置に動かすことができる。どうにかこの服を着て、靴も履いた。これもチャックで繋がっている。服は驚くほど弾力がある。皮膚にピタリと付いているが、圧迫感がない。しかし、体形がはっきりとわかる。鏡に映っている。一度見れば十分だ。したくもないけど脚の短さを再確認してしまう。
「これを被ってくれ」と次郎が言った。
「ヘルメットか」
「ただのヘルメットじゃない。これを被っていれば、どんな言語でも自分の知っている言語で聞ける。これは日本語用だ」
「マスクは」
「いらない。ここの空気とほとんど同じだ。ただ、花粉が多い。アレルギーは地球ではなくても、我々の星でならないとは言えない。それに対応する人間用の薬はない」
「どうしたらいい」
「マスクしかないだろう。このショルダーに一杯入れてある。これで対応してくれ」開けたショルダーの中には、どこにでもあるガーゼのマスクがある。どう見ても日本製だ。
それを見てから、次郎を見た。次郎は何事もなかったように、別のものを手に持って話し始めた。
「これは銃だ。もちろんウイルス銃だ。この星にくる前から、我々の仲間はすでに、体の変化を楽しみ始めていた。俺たちは体を好きなように出来るが、それを楽しみとしてはいけないという道徳がある。それを、ウイルスに感染した者たちは楽しんでいる。だから、ほとんどの者が裸状態だと思う。この銃の玉は、ちょっと大きめな棘(とげ)のような形所をしている。だから、そんなに飛ばない。ここで撃ってみると、5メーターほどしか飛ばないが、我々の星であれば、もっと飛ぶはずだ。我々の星の名前を日本語で言えば、水球が良いだろう。海が広いんだ。他に質問はあるか」
「食事はどうしたらいい。水は飲めるのか」
「沸かしてから、飲んだ方がいいだろ、でも、果物がいっぱいある。ただし、体に合うかどうか分からない。その時はこれを使え」と次郎が言って差し出したのは、キャンプで使っている飯ごうだ。その中に白米が入っている。俺は一体どこへ行くんだ。キャンプ場じゃないよな。頭が混乱してきた。でも、ロケットに乗っていく宇宙旅行じゃない。こっちの穴から別世界の穴への旅だ。途中で飯を食うわけじゃない」と言いながら、次郎はショルダーにその飯ごうを入れた。
「スプーンとカップも欲しいんだけど」
「あっ忘れた。向こうにもあると思うけど、形が違うからな、誰か―持ってきて」
「歯ブラシと歯磨き粉も欲しいんだけど」
「おーい、みんなあー、歯ブラシと歯磨き粉はあるか、使ってないやつが良いんだ」と次郎が叫んだ。さっきの女性が走った。
「他に何かあるかな」
「寝袋は必要かな」
「いや、暖かいから大丈夫だ」
「あの~、風呂には入れるかな」
「残念がら風呂はない。シャワーで我慢してくれ。まあ湖がいっぱいあるから、泳いだらいいと思う」
「わかった」
「それじゃあ、行くか」
「どこら辺に行くかぐらい教えてよ。地図あるんだよね」
「そうだ。地図だ。スマートフォンは使えない」と言って、次郎はとなりの部屋に急いだ。
なんだか心配になってきた。どこへ行くのか分からない所へ、一瞬で飛ばされるのに、地図もないのか。ボーっとしていると、そこにいる五人もボーとしている。次郎が戻った。
「これで勘弁してくれ」と渡されたのは手書きの地図だった。
「これ、正しいの」
「大丈夫だ、記憶力だけは水球でも千人に入る」
「でも、絵は下手だね」
「う~ん、それを言われると、正直落ち込むわ」
「じゃあ行くか」
「いくところは、町はずれで、一軒の空き家の中だ。そこに、必要なものがあるかもしれない。俺たち全員の未来がかかっている。お願いします。山田太郎さん」と、次郎が頭を下げる。ドアのそばにいる新次郎も頭を下げる。そこにいる全員の頭が見える。
「やれるだけのことはしてきます。でも、ちょっと質問して良いですか。私はどうやって帰ってくるんですか」
「我々が利用してきた入口があります。そこに入れば、ここに戻れます」
「出口はあるんですよね」
「心配しないでください。太郎さんが戻るころには、なんとか作っておきますから」
「帰って来られるんですよね」
「大丈夫、帰れる。俺と次郎が保証するよ」と新次郎が言った。
俺は頷いた。

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