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29.2019/10/01 [笑う小説]

29.「じゃあ行くか」
「ああ、頼む」
「忘れ物があった。あまり使わないと思うけど、これをヘルメットの脇の穴に嵌めてくれ」
「これでいいか。でもこれは」
「その先端にある円盤を口のところに持っていけば、太郎の日本語を俺たちの言語にしてくれる」
「日本語も漏れるな」
「ああ、ちょっとでも大丈夫だ、俺も試してみた」
「ちょっと聞いて良いか。みんなはここでは何語で話しているんだ」
「もちろん俺たちの言葉だ。そうしないと忘れるから」
「そうだよな」
「そんなことより、早く行こう」
「遅れるのか」
「いや、遅れる訳がない。向こうに着く時間はセットしてある」
「わかった」
「じゃあ行こう」と、次郎が言うと同時に目の前の壁に穴が開いた。
「じゃあ言って来る」と、言って俺は穴に頭から入った。なにも見えないと思いながら体を前に倒し、上半身が穴に入ったと確信すると同時に、俺は何かに包まれていると感じた。一瞬で向こうの穴から出ると思っていたが、そうではなかった。最初に出た穴の先は、宇宙そのものだ。星干しが見える。突然星干しが光の帯になって走った。いや、俺の方が飛んでいるんだ。寒さも何も感じない。俺を包んでいるなにかが俺を保護してくれているのだろう。
突然、すべてが闇になった。次の穴に入ったのだ。と思う間もなく、大きな星が見えてきた。とてつもない速度で向かっている。氷だけの世界だ。その真ん中にとてつもない速度で向かっている。考えられない、前を見ているだけだ。目の前が凍りだけしか見えない。星の丸い輪郭は一瞬で消えたのだ。どんどん近付く。氷の塊同士がぶつかり合っているのが見える。
が、まだ穴が見えない。と、思うと同時に氷の上に一点の黒い点が見えた。それが俺のスピードに合わせて大きくなる。体にぶつかるのかと思い始めたと同時に俺は穴の中に消えた。
そして一瞬で、星干しの間を飛んでいた。真正面にある光輝く星がどんどん大きくなる。太陽だ。もちろん地球を照らす太陽じゃない。まさかあれに向かって、いやあんなところに次の穴があるはずが、という思いも無視しているかのように、俺の体は、その太陽に向かっている。どんどん近付く。と同時に僅かにずれていることに気づく。しかし、あまり離れていない。不安になる。太陽のフレアの中に入ったら俺は一瞬で燃え尽きる。逃げようがない。諦めるしかないのだ。と思っている一瞬の間に太陽のそばを横切った。直ぐに、青い星が見えてきた。と同時に、俺は飛びだしていた。
「ウワー、あいつら俺にこんな事をしたのかふざけやがって」と、日本語が聞こえてきた。まだ翻訳のスイッチは入れていないはずだ。起き上って後ろを振り向くと、昔見た俺の腹から出てきたあの男が立っていた。
「お久しぶりです」と俺は言った。
「お前、あの時の地球人じゃないか。なんでこんなところに来たんだ」
「何と言ったら良いんでしょうね。それよりも、あなたのおかげで無事、ここにたどり着けました。ありがとうございます」
「あいつら俺に穴を付けたな、お前もぐるか」
「いえ、私は何も知りません」
「そうだよな。地球人のお前が知る分けがねえ」
「一つ聞いて良いですか。あなたが話しているのは、日本語ですよね、なぜこの星の言葉で話さないんです」
「う~ん、それがよう、俺この星の言葉を忘れちゃったんだ。もう誰とも話せねえよ」
「それは大変ですね。よし私が翻訳をして上げますよ」
「地球人のお前がそんなことができるのか」
「できます。このヘルメットの中に翻訳装置が入っていますから。なんとかなりますよ」
「お前いい奴だな。よろしく頼む」
「私の方も、ここは初めての星ですから、色々教えてください。お願いします」
「おう、まかしてくれってことよ」

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