SSブログ

20.2019/09/17   語田早雲です。 [笑う小説]

20.翌日鈴木一郎君の運転で、朝から幽霊が出ると言う家に行った。朝であれば幽霊も出ないはずだ。早起きの幽霊なんて聞いた事ない。
実は、前日に鈴木君に運転を依頼した時に、行きたくないようなそぶりをしていたので、朝には幽霊は出ないと言ったら、運転してくれることになった。
彼らは、見えないものがどうやら怖いらしい、俺の考えでは見えないものは存在しない。まあ、重力とか自然の法則は見えないけど、影響を与えるものは存在している。俺はそういう人間だ。現実的なんだ。
家の前に車が止まった。洋風の家だ。昔風の作りでかなり古い。住んでいた老夫婦は都合で引っ越している。庭も広い、草がぼうぼうと生えているし、大木も生えている。
鈴木が木製のドアを開けた。鈴木の後をついて行く。何の説明もしないで、次々とドアを開けていく。中は綺麗だ。ほこりも被っていない。洋風の広間と、寝室が4部屋にキッチンに食堂もある。和室も2部屋ある。2階は屋根の勾配が急傾斜で2部屋しかないが、傾斜した屋根の下が物置部屋になっている。
1階に降りた。
「幽霊はどの部屋にいるんですか」
「いや、まだ分からない」と正直に言ってしまって「が、何かを感じる」と、ごまかした。いないとは言えない。
「感じる部屋は、どの部屋ですか」
「う~ん、2階に何かを感じる。いるとしたら物置部屋あたりだろう」と、言ってしまった。でも、あそこにはいらなくなったガラクタがあり、蜘蛛の巣もはっている。我ながら言い答えだ。
「あのう、あしたも来ないといけないですか」
「代わりに誰か来てくれれば、誰でもいいよ」
「う~ん、誰も来てくれません」
「わかるの」
「ええ、わかります」
「じゃあ、除霊している間、外で待っていればいいよ」
そして、会社に向かった。途中で車を何度か止まらせ、明日に必要なものを買ってきた。
翌日午後三時ごろ、社長室で除霊に必要な物をチェックしていると、麗と新次郎が部屋に入ってきた。
「失礼します」
「どういたしまして、あれ新次郎も来たの」
「一人じゃ怖いって麗が言いだしたものですから」
「こんなこと聞いていいのかどうか分からないけど、怖さって伝わるの。君たち二人が、あの家で恐ろしさにパニックになったら、みんなに伝わるの」と、言ってしまった。二人とも怖くなったのか、震えているように見えた。
やり過ぎてしまったかもしれない。後でばれたら嫌われる。
「行きますか」
二人の後ろから、顔を突き出して鈴木君が言った。その顔を見る限り、恐怖は伝わらないようだ。
「ちょっと早いような気もするが、行くか。二人ともどうする。来てもこなくてもどちらでも、お好きなように」俺はもちろん来ない方を期待した。除霊ごっこはしたくない。
「わたし、行くわ」と麗が答えた。新次郎が頷いた。
「じゃあ、お願いします」と言って、俺はバックを掴んだ。もちろん無駄に大きい黒いバックだ。ピンク色じゃまずい、そのくらいは分かる。
鈴木君は素早く階段に向かい足音を立てながら降りて行った。俺たち三人はエエレベーターに向かった。三階建てのエレベーターなのにやけに大きい。まあ、広々として気持ちいが。
入口の自動ドアが開くと歩道の前に車が止まった。車から降りてきた鈴木君が黒いバックを持とうとしたが断った。俺は前の座席に座り、二人を後ろの席に座らせた。俺はバックを貴重品を扱うような仕草で抱えた。中には、榊(さかき)と酒一升壜(びん)と塩の袋だけだ。白装束や鉢巻きも考えたが、あまり凝ると怪しくなる。まあ、宇宙人がどう見るか分からない。
車は庭の中央まで進んだ。家の外まで除霊するつもりはない。だってくたびれる。鈴木を先頭に家に入ったが、俺が直ぐ先頭になり、和室に向かった。宇宙人は正座をしていない。苦手なはずだ。これも計画に入っていた。仏壇がないので、何もない床の間の真ん中に大きめの白い皿を置き塩で山をつくり、真ん中にろうそくを立てた。こんな蝋燭の建て方を初めて見た。
鈴木がしなくても良いのに電気を付けてから部屋を出て言った。俺は蝋燭(ろうそく)に灯をともし、呪文を言った。もちろん小声だ。なにを言っているか聞こえないようにするためだ。彼らは直ぐ覚えるから、大声でだと、後で調べられる。
声を出している本人がなにを言っているか分からないものを、覚えられる奴はいない。
黒バックから、大きめの榊を取り出した。それで、蝋燭の火に向かって榊を二三度ほど振った。
それから、体を回して厳粛(げんしゅく)な顔で、「頭を下げなさい」と二人に向かって言った。麗が最初だ、彼女の頭の上に軽く榊をのせ、すぐに上げてから左右にバサバサと音を立てながら振った。もちろん新次郎にも同じことをした。
そして、ろうそくの灯を消して、立ち上がり、「ついて来なさい」と言った。もちろん今度は、顔も見ない。ふすまを開け廊下を歩き階段を上り、物置部屋に向かった。鍵の掛かっていないドアを開けた。裸電球に光がともっていたが、薄暗かった。
「ここで除霊の儀を行う。両手を合わせて目を瞑りなさい」と大声で言ったが、なにをどうするか考えて来なかった。
まず、即製の小声の呪文を唱えながら榊を先ほどより激しく振った。時々呪文にどなり声も入れる。最後に、「タイサン、タイサン、タイサン」と大声を叫びながら、ポケットから取り出した拍子木でパチンパチンと音を鳴らし、素早くポケットに戻した。
「終わりました。目を開けてください」
「幽霊はいたんですか」
「ええ、いました。でももう出てきません」
「見たんですか」
「ええ、見ました」
「怖いんですか」
「とんでもありません、かなりぼやけていましたから。もうすぐ成仏するんじゃないですか、穏やかな様子でした」
「それは良かった」
「じゃあ帰りましょ」
「はい」

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:お笑い

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

19.2019/09/1321.2019/09/18 語田早雲.. ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。