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25.2019/09/25 語田早雲です。 [笑う小説]

25.その日は楽しく過ごした。夕食は外で食べて、その後、家まで車で送った。彼女はアパートに住んでいる。寄っていくと言ってくれたけど、遠慮した。でも五日後に会う約束は取った。彼女は大学を出て半年もたっているが、仕事をしていない。理由は聞かない。帰り道の途中で、スマートホンにが鳴った。初めてだ。車を脇に止めた。次郎だ。いや川田部長だ。
「驚いたか」
「驚いたよ、勝手に出てくるなんて約束が違うよ」
「すまない。あいつは俺たちの仲間になりたがっているんだが、俺たちは絶対認めない」
「なぜ」
「あいつこそ、ウイルスを広めた本人なんだ。俺たちの文明を破壊した男だ」
「そんな奴がまだ生きているのか。地球上だったらすでに誰かに殺されているよ」
「ああ、俺たちは殺せないんだ。でも、死ぬ権利は与えられる」
「どうやって」
「でもこの星の上では、与えられない」
「じゃあ、死ぬまで待つしかない」
「今のところは、そんな所だ」
「で、あいつをどうするんだ」
「会社の1階のあの部屋に、あいつ用の入れ物がある。そこに入れた」
「死んだらどうするんだ。悪臭が」
「大丈夫だ、直ぐには死なない、俺たちは何もしなくても10年くらいは生きている」
「わかった。でも、もうないんだろう」
「それは大丈夫だ、補償する」
「わかった」
「じゃあ失礼する」
 車を飛ばして、一人住まいの大きな家に向かった。
 翌朝は、当然会社に向かった。することがないので、いつの間にか俺なりの勉強をしていた。会社についての本やら株、不動産、などの本だ。でも、全然夢中になれない。それでも、大まかなことは分かったので、一ヶ月ほどでやめた。その間も、かなりの数の宇宙人をこの社長室で、出してきた。その度に、会社が大きくなる。と言っても、仕事の種類が増えていくので、この本社ビルは大きくならない。
彼らも、この日本に住んでいる、移民みたいなものだ。しかし、彼らの団結は違う。彼らが作る工場の種類が多い。何か特別なものを作っているかもしれない。でも、地球征服を考えているはずはない。
そして、新次郎を出してから一年が過ぎた。もう、262人も出した。子供たちも69人ほど出した。その彼らは、保育園と幼稚園とが一緒になった、彼らだけの施設に住んでいる。何度か訪れた、でもあまり楽しくない。子供たち全員が、俺に挨拶してくれるけれど、子供たちが静かすぎる。人間とは違うのだ。
何時ものようにそれは始まったが、今日で最後だと川田部長が言った。俺は大きめの低いテーブルの上で横になった。100人を過ぎたころから、これに代えた。
「いくぞ」と次郎。
「おう」と、意味もない新次郎のいつもの返事。もうこれで聞くこともない最後の言葉。
「でった。一人目だ」
「おう」
「つぎだ」
「おっ」
「つぎだ」
「三人目だ」
「つぎだ」
「お終い」
出てきたのは、三人の子供たちと、一人の女性だ。子供たちの年齢はばらばらだ。女の子の赤ん坊と少年とちょっと年上の背の高い少女、そして初めて見る宇宙人の老婆だった。
子供たちの嬉しそうな感謝の言葉。
そして最後に老婆は俺の手を取って、「お疲れさまでした。私たちみんなは、心から貴方に感謝しています。命の恩人です」と言った。涙が出ていた、宇宙人の涙を初めて見た。堰を切ったかのように次郎も、新次郎も涙を流していた。子供たちもつられて泣いている。廊下の外からも涙声が聞こえている。俺も涙があふれて止まらなかった。

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